持ちつ持たれつカイメン暮らし—カイメン共生性二枚貝の生活史—

椿 玲未 (海洋研究開発機構)

ホウオウガイはカイメンに埋在して生活するという特殊な生態を持つ二枚貝である。ホウオウガイの寄主特異性は極めて高くSpongia sp.一種のみをホストとして利用し、採集した全てのSpongia sp.にはホウオウガイが共生していたことから、両者は絶対相利共生関係にある可能性が示唆された。ホウオウガイはカイメンと共生することで捕食を回避できるというメリットがある一方、カイメンがホウオウガイとの共生から得るメリットは不明である。そこで、私はホウオウガイが濾過済みの海水をカイメンの体内に排出していることに着目し、カイメンはその強い水流を利用して体内の水循環を効率的に行っているのではないかと考え、両者の起こす水流について調査を行った。その結果、カイメンの水溝系はホウオウガイの排出する水を受け入れる特殊な構造になっており、ホウオウガイから取り込まれた水はカイメンの体内をめぐった後カイメンの特定の出水孔から排出された。次に、カイメンがどの程度ホウオウガイからの水流に依存しているのかを明らかにするために、カイメン全体をめぐる水量とホウオウガイが排水する水量を調べて比較した結果、カイメン体内に取り込まれる水の内半分以上はホウオウガイの排水由来であった。そして、ホウオウガイが排水した後の水にカイメンの餌となる植物プランクトンがどの程度残されているのかを調べた結果、半数以上の植物プランクトンは濾過されず排出されているということが明らかになった。これらの結果から、カイメンとホウオウガイの関係はホウオウガイが一方的に利益を得るだけでなく、カイメンがホウオウガイの水流を利用して自ら水流を生み出すコストを節約し、またホウオウガイから十分に餌を含んだ海水の供給を受けるという、水流を介した相利共生関係にあることが明らかになった。

貝類を通して生命現象に迫る 4:生活史

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