和田 慎一郎 (森林総合研究所)
カタツムリ(陸産貝類)といえばのろまなイメージが一般的だろう。事実そうであるし、その移動性の低さこそがカタツムリの多様化の一因といえる。一方、カタツムリは島嶼をはじめ世界中に広く生息している程度にはフットワークの軽い生き物でもある。もちろんこれは自力移動ではなく、海流や鳥付着散布などといった受動的分散によるものと考えられる。カタツムリは殻に引き篭ることで悪環境に対して比較的長期間耐えることができるため、他の生き物が耐えられないような過酷な長距離分散もやり遂げられるのだろう。また、長距離分散の成功率はサイズに依存する側面があり、実際に海洋島をはじめとした島嶼では小型のカタツムリが多い傾向があることも知られている。海洋島である小笠原諸島もその例にもれず、生息する多くのカタツムリは1cmにも満たない小型なものばかりである。中でも殻が2~3mmの微小なグループでは受動的分散がよりおきやすいためか、同じ種が列島を越えて分布することも珍しくない。しかし一方で、サイズや形態が似通っているにもかかわらず、種や分類群によって分布や多様化のパターンが異なるケースもあることが明らかになってきた。本講演では、小笠原諸島の微小陸貝に焦点をあて、微小種間で上記のような違いが生じる要因について考察したい。